WHAT IS DESIGN THINKING?デザイン思考とは?
デザイン思考とは?:ポイントを2分で学ぶ
ページ・サマリーと目次
ページ・サマリー
変化が激しい21世紀のビジネス環境において、戦略的にイノベーションに取り組むことは、組織が成果を出す上で欠かせない活動となっています。
そのような時代の中、具体的に新しい顧客価値を創造する方法論として、日系企業を含む世界のリーティング・カンパニーが「デザイン思考 ( Design Thinking)」を活用しています。
このページでは、デザイン思考とは何か、どのような効果があるのか、導入する際に気をつけるポイントについて簡単に紹介しています。
デザイン思考の概要
「デザイン思考」とは、イノベーションのための方法論です。顧客の行動や社会の様子を深く理解することを出発点に、数値化されたデータを論理的に分析するだけでなく、社会の未来や事業のビジョンを直観的に創造するプロセスを通じて、新しい価値を世の中に提供します。
デザイン思考で重視するのは、人間中心の視点です。人間中心とは、常に顧客や社会の視点を価値創造の根源として扱うことを意味します。逆に言えば、企業の財務的な制約や製品の技術的な制約のみでビジネスを考えるようなことはしません。人間中心でイノベーションを実現させる、問題発見・問題解決の方法論がデザイン思考です。
デザイン思考の構成要素を大きく2つに分けると、現状の顧客や社会動態を理解するための「問題発見」段階と、顧客や社会に有益な理想の事業コンセプトを創造する「問題解決」段階の2つから構成されます。そして、より具体的には以下の4つの行動に分解できます。
- 顧客や社会が抱える問題を現場調査で明らかにし、
- 旧来とは異なる視点でその問題の意味を再定義し、
- 質より量を重視しながら大量の解決策を探求した上で、
- 顧客との交流を通じて質の高いコンセプトを生み出す。
デザイン思考は、途中で間違いに気がついても修正しないで直線的に進めるリニアな取り組みとは違います。状況に応じて、必要な行動を何度も繰り返すことが前提です。顧客/業界/社会といった様々な視点・角度から試行錯誤して問題発見/解決に取り組み、これまでとは異なる新しい成果創造を促すのがデザイン思考です。
デザイン思考の効果・重要性・事例
デザイン思考をビジネスに取り入れる動きは、日本のみならず、アメリカ、ドイツ、中国等で広がっています。その重要性を示すように、世界14カ国、60万人のビジネス・リーダーやプロフェッショナルが目を通しているハーバード・ビジネス・レビューでも、デザイン思考の特集が組まれています。
では、デザイン思考の活用によって、どのような効果があるのでしょうか。なぜデザイン思考を取り入れることが、ビジネスで成果を出す上で重要なのでしょうか。以下より簡単に、デザイン思考とビジネスに関する、いくつかの研究・調査結果を紹介します。
デザイン思考の発想を活かして事業展開をするApple、 コカ・コーラ、IBM、ナイキ、P&Gなどのリーディング・カンパニーは、S&P500の他企業と比べて10年間で2倍以上(211%)の成長を記録しています。
また、米国以外にも英国、フランス、ドイツ、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、日本の企業における意思決定者339人に行った調査によれば、戦略的なデザインの活用は顧客のロイヤリティを高め(50%)、他社との競争優位においても有効である(46%)と、それぞれの割合で報告がされています。
実際の企業例を見てみましょう。Appleは、顧客が何を求めているかについての意識を創業時からしており、技術的な制約を前提に製品を開発することはありませんでした。1990年代のMac OS設計者は次のように述べています。
「私たちは最初にデザインからスタートしました。人々が何を必要とし、何を求めているのか、どのようにコンピュータとやりとりするのかに焦点を当てるのです。
そして、人々のニーズを適切に把握しているか確認した後で、技術的にどうやって実装するかを考えました。多くの場合、人々にとって本当に役に立つデザインを思いついても、どうやってそれを形にするかはわかっていませんでした。
私たちにはまずデザイン目標があり、それを達成するためにエンジニアリングと協力したのです。当初は不可能だと思っていたことや、時間がかかると思っていたことも、最終的にはたくさん行うことができました」 by Cordell Ratzlaff, Apple
上記の例が示すように、人々が何を求めているか、ニーズを明確にしてから技術的な課題に取り組む方法は、人間中心デザイン(Human-centered Design)と呼ばれており、デザイン思考の根幹をなす考え方となっています。
人間中心の発想を土台とすることで、企業から見た技術的・財務的な制約から事業を考えるのではなく、顧客や社会のニーズを起点として新しい価値:イノベーションを生み出すことができます。
Source:DMI, Adobe, Harvard Business School
デザイン思考のプロセス: d.seedモデル
デザイン思考を企業活動に取り入れる際、具体的にどのような行動が求められるのでしょうか。以下より、デザイン思考のフェーズを5つに可視化したd.seedモデルを紹介します。
1. 発見フェーズ
発見とは?
このフェーズでは、相手の年代や職業、年収や住所といった一般的な属性で顧客を分類する考えを一旦脇に置きます。相手を知る前にカテゴライズしたあとで顧客や顧客候補に関わるのではなく、ありのままの状態で相手はどのような人なのか、そこにはどんなストーリーがあるのかを、深い共感を通じて理解します。
発見の重要性
イノベーションを起こす上で、組織の技術や資金といったリソースも重要である一方、リソースを投下して実現する製品やサービスを顧客が支持するから、実現した製品・サービスが世に広がっていきます。顧客の支持を得るには、顧客のために新しい価値を創造しなければいけません。
2. 詳細化フェーズ
詳細化とは?
詳細化フェーズでは、発見フェーズで得られた顧客や顧客の行動に関わる情報を、整理・分析しながら顧客ニーズやイノベーションの機会につながる気づき:インサイトを得ていきます。
詳細化の重要性
詳細化フェーズで、顧客に関わる情報を丁寧に振り返り確認する中で、それまでチームや組織が想定していなかった新しい視点を得ることができます。この新しい視点によって次のイノベーションが生まれます。
3. 探索フェーズ
探索とは?
探索フェーズでは、調査を通じて明らかになったイノベーションの機会において、価値を生み出せる新しいコンセプト候補を出します。探索という名前が示すとおり、完璧な答えを一つ生み出すのではなく、新事業や新製品 / サービスの可能性を広げることが重要です。このフェーズを実行することで、顧客や社会に対する革新的なソリューションを生み出すきっかけを得ることができます。
探索の重要性
顧客のニーズに対して、そのニーズを満たす方法が1つだけということは滅多にありません。顧客が抱えている課題や問題を1つに絞ったあとは、その課題や問題を解決するための様々な方法を可能な限り創造します。特に、プロジェクトや事業開発のプロセスが初期段階にある場合、この探索フェーズで可能な限り選択肢を増やすことが重要になります。
4. 実験フェーズ
実験とは?
実験フェーズでは、アイデアを具現化して顧客からのフィードバックを獲得します。目的は、自分たちが想定していたアイデアが、どのように顧客に対して価値を提供できるのか、実験的に明らかにすることにあります。
実験の重要性
実験フェーズを実施することで、これまで創造したアイデアのどの部分に焦点をあててプロダクト開発をすすめていくか、顧客の声を参考にしながらそのプロセスを固めていくことができます。実験フェーズで重要なことは、チームがこれまで気がついていなかった新しい学びを得ることです。
5. 展開フェーズ
展開とは?
新しいコンセプトの有用性が以前よりも明確になってきた後は、チーム外の社内関係者や社外パートナーに協力を仰ぎなら、新しいコンセプトを製品化 / サービス化するプロセスを進めることになります。具体的には、2種類の方向で業務を展開し、ビジネスの実現性を高めていきます。
展開の重要性
展開フェーズを実施することで、チームメンバー、社内関係者、社外パートナーといった利害関係者に対して、今後の事業開発で必要な支援を得られるきっかけをつくることができます。
デザイン思考を導入する際の4つのポイント
デザイン思考を効果的に組織に導入するにはいくつかの原則があります。ここでは、特に重要な点に絞って、4つのポイントを紹介します。
1. ベイビー・ステップを踏む:
デザイン思考に限らず、新しい取り組みが一夜にして全社に広がることは滅多にありません。どのような方法論であっても、なぜそのやり方が重要なのか、どのように実践するのかについて、時間をかけて周囲に理解してもらう必要があります。
デザイン思考の場合、最も重要なのは「人間中心」の考え方です。既にAppleの例で簡単に紹介したように、イノベーションによって新しい市場を作りたいのであれば、この考え方は必要不可欠です。
あなたがどのような立場であれ、急激な変化を伴う提案は、多くの組織で歓迎されません。いきなりすべてを変えようとするのではなく、小さな第一歩:ベイビー・ステップことから始めましょう。例えば、2-3人の非公式のチームを組んでデザイン思考に関する取り組みを始めます。毎週知識やスキルアップのための時間を確保し、実験する感覚でビジネス上のプロセスに少しだけデザイン思考を適用してみましょう。
2. チームをつくる:経営陣/管理職/現場社員
デザイン思考を効果的に活用するには、経営陣レベル、管理職レベル、現場レベルでのコラボレーションが必要です。例えば、あなたが経営陣や管理職であれば、デザイン思考に対して直接的に関与する方法と、間接的に関与する方法があります。
直接的な関与には、あなた自身でプロジェクトを立ち上げたり、イノベーティブなアイデアを実現させる組織的障害を積極的に取り除くことが含まれます。
一方の間接的な関わり方としては、部下がプロジェクト実施を円滑にできるよう、必要に応じて様々なサポートを行うことになります。例えば、調査対象となる既存顧客の紹介、コンセプトに対するフィードバック、新しい予算の確保といった活動です。
3. 既存の製品開発や戦略創造のプロセスにデザイン思考を統合する
ベイビー・ステップを通じて少しずつ実績が蓄積されてきたら、デザイン思考を組織の本流に合流される必要があります。具体的には、既存の製品開発プロセスや戦略創造のプロセスにデザイン思考を取り入れます。
例えば、製品開発プロセスが既存製品の機能分析からスタートするのであれば、分析は少し後で行うとして、まずは定性的な顧客調査から始めるようにします。もしくは、戦略創造の際に競合他社の事業分析からスタートしていたのであれば、その業界をとりまく社会動態(人口構造/社会通念/政治経済動向等)について理解することから始めます。
デザイン思考をイノベーション活動に戦略的に統合することで、これまで市場に提供してきた製品/サービスと比較して、新しい方法によって品質や顧客満足度がどう変化したかを測定できるようになります。
継続的なデザイン思考実践を通じてデータが蓄積され、従来の取り組みでは得られなかった成果が期待できると明らかになります。そのような状態になれば、デザイン思考は事業創造の「オプション」ではなく、必要不可欠の「前提条件」であると、社内外の利害関係者から支持を得られるようになります。
4. 短期的成果でなく学習に焦点を合わせる
デザイン思考は、イノベーションを促進する最初のきっかけに過ぎません。初期段階でいきなり成果が出ることは期待しないでください。初期段階で重要なことは、結果に対してコミットすることではなく、学習に対してコミットすることです。
なぜなら、新しい製品/サービスでこれまでにない成果を出すには、その製品やサービスを開発する前に、顧客の行動や感情、顧客を取り巻く環境等について深く理解する必要があるからです。
学習は、具体的な範囲からのスタートで構いません。例えば、想定よりも利用されない状態の機能があったとしたら「なぜ顧客はこの追加機能を利用しないのか?」と学習目標を設定します。そして、学習目標を意識しながら、今までわかっていなかったことを知るために顧客と交流します。その結果、「そもそも追加機能があると顧客が気づいてなかった」「顧客にとっては操作がとても複雑だったので、途中で使うのをあきらめた」といった具合です。
もし、今のプロジェクトが最終的な成果を出せなかったとしても、そのプロセスで得られた顧客に関する新しい情報は、次のプロジェクトで成果を出すための重要なリソースとして機能します。まずは学習することを目標に、プロジェクトを進めていきましょう。
デザイン思考を理解するためのテキスト:ダウンロード無料
イノベーションのための1つの方法論である「デザイン思考」。デザイン思考のプロセスを可視化したd.seedモデルは、5つのフェーズから構成されています。本テキストでは、デザイン思考の特徴とd.seed モデルの中身が記載されています。これからデザイン思考を学ぼうと考えている方はもちろん、既にデザイン思考を学んでいる方にもオススメの1冊です。無料でダウンロードできますので、この機会にぜひご覧ください。